INTRODUCTION

大胆不敵な人質奪還計画を驚くべき成功に導いたものとは?
事件から43年後のいま、あなたは奇跡の目撃者になる――
43年前の夏、イスラエル人が多数乗るエールフランス139便がハイジャックされ、ウガンダのエンテベ空港へ向かった。そして7日後、イスラエル特殊部隊が<サンダーボルト作戦>を遂行。数名の犠牲者を出したものの、102名の人質が帰還を果たし、稀にみる成功を収めた。衝撃的な事件の幕開けから劇的な幕切れまでが世界を驚愕させ、『エンテベの勝利』(76)、『特攻サンダーボルト作戦』(76)、『サンダーボルト救出作戦』(77)とハリウッドなどが競って映画化した奇跡の救出劇がいま、新たな視点でスクリーンに甦る。

1976年6月27日。テルアビブからパリへ向かうエールフランス機が、4人のハイジャック犯に乗っ取られた。240名近い乗客を恐怖に陥れたハイジャック犯のうち2名は、パレスチナ解放人民戦線のパレスチナ人メンバー。残り2名は、革命を志すドイツ左翼急進派メンバー、ヴィルフリード・ボーゼとブリギッテ・クールマンだった。ハイジャック機は、悪名高き独裁者イディ・アミン大統領が待つ、ウガンダのエンテベ空港に着陸。乗客たちは空港の旧ターミナルに移され、武装犯の監視下に置かれる。犯人たちの要求は500万ドルと、世界各地に収監されている50人以上の親パレスチナ過激派の解放だ。

多数の自国民を人質にとられたイスラエルの首相イツハク・ラビンは、交渉の道を探りつつも、態度を保留し続けた。ハイジャック犯と交渉すべきではないと、国防大臣シモン・ペレスが強く進言したためだ。ペレスは秘密裏に軍事的解決をおこなうよう提案し、ウガンダに駐在した経験のある士官らと策を練っていく。
イスラエル人を除く人質の解放が段階的に進むなか、人質家族らの圧力や大量殺戮の脅威を抱えたラビン首相は、交渉のテーブルに着くと見せかけ、型破りな救出作戦を許可。そのエンテベ空港奇襲作戦(別名:サンダーボルト作戦)は、一瞬のタイミング、不意打ち、隣国からの協力を必要とする、大胆不敵な計画だった。演習を重ねた末ついに、前例のない作戦を遂行するイスラエルのエリート特殊部隊が、エンテベ空港へ送り込まれる……。
社会派監督と実力派キャストによる珠玉のアンサンブル・プレイ
メガホンを執ったのは、ベルリン国際映画祭金熊賞受賞作『エリート・スクワッド』(07)、リメイク版『ロボコップ』(14)のジョゼ・パジーリャだ。実在する麻薬の元締めをモデルにした「ナルコス」(15~17)や実際の汚職事件に着想を得た「メカニズム」(18~)などのTVシリーズでも腕を振るってきた気鋭監督が、世界を震撼させた事件の生々しさと鼓動高鳴るサスペンス、複雑な人間模様を見事に融合させ、骨太なエンターテインメントへと昇華させている。

ボーゼを演じるのは、『グッバイ、レーニン!』(03)『ラッシュ/プライドと友情』(13)で名高いダニエル・ブリュール。確かな表現力と語学力を武器に活躍を続ける彼が、理想と目の前の現実の間で揺れ動くキャラクターを人間味たっぷりに体現してみせた。

またブリギッテ役には、『ゴーン・ガール』(14)の怪演でアカデミー賞®ほか映画賞レースを席巻したロザムンド・パイク。非情に振る舞いつつ自身も人知れず傷ついていく女のせつない表情を、ほぼノーメイクでスクリーンに焼きつけた。
W主演の脇を固める多国籍キャストもまた、実力派ぞろいだ。ペレス国防大臣役には、英米を股にかけ活躍を続ける『シャーロック・ホームズ』シリーズのエディ・マーサン。ラビン首相役に『運命は踊る』(17)のイスラエルの名優リオル・アシュケナージ。束の間ボーゼと心を通わせる航空機関士ジャック・ルモワーヌ役に『ジュリアン』(17)のドゥニ・メノーシェが扮し、スリリングな群像ドラマを盛り上げる。

STORY

<1日目/1976年6月27日、日曜日>

イスラエル・テルアビブ発パリ行きのエールフランス139便が、経由地のアテネを飛び立つ。だが高度に達した直後、その飛行機は重武装した4人のテロリストにハイジャックされる。犯人のうち2名は、パレスチナ解放人民戦線・外部司令部(通称:PFLP-EO)のパレスチナ人メンバー。残り2名は、パレスチナの大義に同調するドイツ極左の過激派グループ“革命細胞”(通称RZ)のメンバー、ヴィルフリード・ボーゼ(ダニエル・ブリュール)と、ブリギッテ・クールマン(ロザムンド・パイク)だった。ボーゼは早々と、操縦室を制圧。機長以外は操縦室を出るよう命令するものの、航空機関士のジャック・ルモワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)は拒絶する。恐怖に怯える乗客たち全員のIDとパスポートを犯人たちが没収するなか、飛行機は南へ方向転換。リビアのベンガジで燃料を補給し、体調不良を訴える自称・妊婦の乗客1人を解放したのち、ウガンダのエンテベ空港へと向かう。 事件の一報がイスラエルの首相イツハク・ラビン(リオル・アシュケナージ)に届いたのは、国防費を巡って国防大臣シモン・ペレス(エディ・マーサン)と攻防を続けていた閣議の最中だった。そっと手渡された1枚のメモの裏に、質問を書き留めるラビン。やがて、乗客239人のうち83人がイスラエル人だと判明する。
<半年前>

ドイツ、フランクフルト。ボーゼがブリギッテとフアン・パブロに、パレスチナ解放人民戦線(PFLP)のジャベールを紹介。ハイジャックについての話し合いがもたれた。支持を失い、構成員の多くが獄中にいる彼らは、事件を起こして若者へのアピールを計るとともに、同胞の釈放を求めようとしたのだ。その後、イエメンのPFLP訓練所でウルリケ・マインホフの自殺を知らされたボーゼは、彼女のためにも活動を続けると返答。ウガンダの“異常者”イディ・アミンに命を預けることにフアンは反対するが、ウルリケに罪悪感を抱くブリギッテは、彼の言葉に耳を貸そうとしなかった。
<2日目/1976年6月28日、月曜日>

イスラエルから4000kmも離れた、エンテベ空港へ降り立つ一行。アミン(ノンソー・アノジー)大統領の出迎えを受けたのち、空港ビルの旧ターミナルに監禁される。空港で待っていたワディ・ハダドは「交渉は任せろ」とボーゼらに言い残し、アミンと去っていく。劣悪な環境下に置かれた乗客の体調を憂慮するルモワーヌは、ボーゼに直訴。ボーゼは環境の改善を約束するとともに、「いずれ俺が正しいと分かる」と答えるのだった。その夜、ドイツ人の人質女性が錯乱状態になる。鎮めようと外へ連れ出したボーゼは、彼女がナチ強制収容所にいたことをその腕からみてとるのだった。
イスラエルでは、ハダドの犯行だろうと断定するペレスに、ラビンが現地への出兵方法を考えるよう指示を出す。
<3日目/1976年6月29日、火曜日>

エンテベ空港では、人質がイスラエル人と非イスラエル人に選別される。イスラエル人を一部屋に集め、爆発物で取り囲むためだ。横暴な“仕分け”に混乱する人質と、「俺はナチじゃない」と憤るボーゼ。そんなボーゼを尻目にブリギッテは、「抵抗すれば撃つ」と機関銃を手に人質を威嚇する。だが非情に徹するブリギッテもまた、人知れず葛藤と闘っていた。
イスラエルでは、特殊部隊司令部の動きが活発化。だが首相官邸では、ハイジャック犯との交渉を検討するラビンと、「囚人52名の釈放要求など呑むわけにはいかない」と反発するペレスとの溝は深まるばかりだった。ペレスは、アミンが乗っているベンツのリムジンと特殊部隊を輸送機で送り、アミンの振りをして敵に奇襲をかける作戦を進めていく。
<4日目/1976年6月30日、水曜日>

前日にイスラエルの将軍から電話を受けたアミンの提案で、人質の一部、48人が解放される。カメラの前では笑みを湛えて人質を送り出す一方、アミンは残された人質の前で、イスラエル政府が交渉に応じなければ子どもを殺していくと恫喝する。交渉の期限は、翌日に迫っていた。

<5日目/1976年7月1日、木曜日>

朝。水が出なくてトイレが使えないことから、ボーゼの監視下でルモワーヌが給水設備を修理する。「パレスチナ人のためなら人質を殺してもいいのか?」ルモワーヌの言葉に、ボーゼの心は揺れ動く。
テロリストと交渉しない方針を示してきたイスラエル政府も、態度を軟化。人質家族の姿を目の当たりにしたラビンが、交渉に応じると表明したのだ。
イスラエル政府の方針転換を受け、犯人たちは期限を日曜に延長する。だがその夜、勝利に浮かれるボーゼに対して、ジャベールは厳しい言葉を浴びせていく。同じ頃、ペレスたちは救出作戦の最終確認に入っていた。
<6日目/1976年7月2日、金曜日>

交渉に応じてきたイスラエル政府への善意の証として、人質のフランス人全員が解放されることに。だがエールフランスの乗員たちは、残ることを決意する。帰国する人質に、ルモワーヌは妻への手紙を託す。
指揮官のヨナタン(ヨニ)・ネタニヤフ中佐のもと、救出作戦の演習をおこなうイスラエル特殊部隊。夜の闇に紛れて新ターミナルの滑走路に着陸、アミンとその護衛を装ったリムジンで旧ターミナルへ行き、敵を壊滅して人質を輸送機に乗せて戻る作戦だ。承認を待つ隊員のなかには、ダンサーの恋人と暮らすジーヴ(ベン・シュネッツァー)の姿もあった。

<7日目/1976年7月3日、土曜日>
イスラエル特殊部隊が、エンテベ空港へと出動。政府が人質救出作戦を承認し、機上の部隊に<サンダーボルト作戦>遂行の命が下る。 空港の新ターミナルでは、憔悴したブリギッテがフアンに電話をかけていた。「これが終わったら、故郷をみつけましょう。どこか平和な場所を」けれどその声は、最愛の人に届くはずもなかった……。

CAST

ダニエル・ブリュール(ヴィルフリード・ボーゼ)
DANIEL BRÜHL (Wilfried Böse)
1978年6月16日、スペイン生まれ。生後すぐに移住したため、国籍はドイツ。ドイツ人の父親とスペイン人の母親のもと、ドイツ語とスペイン語を母国語として育ち、英語、フランス語にも堪能。4歳から子役として活動し、10代でスクリーンデビュー。世界的成功を収めた03年の『グッバイ、レーニン!』で、ヨーロッパ映画賞とドイツ映画賞の最優秀主演男優賞に輝いた。続く『ベルリン、僕らの革命』(04)でも高い演技力を評価され、『ラヴェンダーの咲く庭で』(04)で初の英語圏の作品に進出。アカデミー賞®を受賞したクエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』(09)でも強烈な存在感を放ち、アメリカの観客にその名を印象づけた。ロン・ハワード監督の『ラッシュ/プライドと友情』(13)では、ゴールデングローブ賞、英アカデミー(BAFTA)賞、全米映画俳優組合(SAG)賞、放送映画批評家協会賞の最優秀助演男優賞にノミネートされた。その他の出演作に、『ボーン・アルティメイタム』(07)、『パリ、恋人たちの2日間』(07)、『コッホ先生と僕らの革命』(11)、『誰よりも狙われた男』(14)、『黄金のアデーレ 名画の帰還』(15)、『二つ星の料理人』(15)、『僕とカミンスキーの旅』(15)、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(16)、『ヒトラーへの285枚の葉書』(16)、『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』(17)など。
ロザムンド・パイク(ブリギッテ・クールマン)
ROSAMUND PIKE (Brigitte Kuhlmann)
1979年1月27日、イギリス生まれ。オペラ歌手の父親とヴァイオリニストの母親を持ち、7歳までヨーロッパ各地を転々とする生活を送ったため、フランス語とドイツ語に堪能。オックスフォード大学在学中から舞台やテレビを中心に活躍し、『007/ダイ・アナザー・デイ』(03)のボンドガールにハル・ベリーとともに抜擢され、話題となる。2014年のデヴィッド・フィンチャー監督作『ゴーン・ガール』では怪演が大絶賛され、アカデミー賞®、ゴールデングローブ賞、全米映画俳優組合(SAG)賞、放送映画批評家協会賞の最優秀女優賞にノミネートされた。その他の主な出演作に、ジョニー・デップと共演した『リバティーン』(04)、ジョー・ライト監督の『プライドと偏見』(06)、『17歳の肖像』(10)、『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』(11)、『アウトロー』(12)、『タイタンの逆襲』(12)、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う』(13)、『しあわせはどこにある』(14)、『海賊じいちゃんの贈りもの』(14)、『ナチス第三の男』(17)、この9月に続けて日本公開される『荒野の誓い』(17)、『プライベート・ウォー』(18)などがある。映画の仕事に加え、古巣であるロンドンの舞台にも登場し続けている。出演作に、タイトルロールを演じて絶賛を浴びた「ヘッダ・ガブラー」、パトリック・ハミルトン作のサスペンス「ガス燈」、ジュディ・デンチと共演した「サド侯爵夫人」など。私生活では二児の母親。
エディ・マーサン(シモン・ペレス)
EDDIE MARSAN (Shimon Peres)
1968年6月9日、イギリス生まれ。『ギャングスター・ナンバー1』(00)で注目を集め、マイク・リー監督の『ヴェラ・ドレイク』(04)で英インディペンデント映画(BIFA)賞最優秀助演男優賞を受賞。以来、マイケル・マン、テレンス・マリック、J・J・エイブラムス、スティーヴン・スピルバーグら名立たる映画人とチームを組み、英米を股にかけ活躍を続けている。主な出演作に、『アリス・クリードの失踪』(09)、『シャーロック・ホームズ』(09)、『思秋期』(10)、『戦火の馬』(11)、『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』(11)、『フィルス』(13)、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』(13)、『おみおくりの作法』(13)、『人生はシネマティック!』(16)、『テッドプール2』(18)、『バイス』(18)など。
リオル・アシュケナージ(イツハク・ラビン)
LIOR ASHKENAZI (Yitzak Rabin)
1969年12月28日、イスラエル生まれ。94年に演劇学校を卒業し、俳優活動をスタート。数多くの舞台に出演後、『LATE MARRIAGE』(01・未)で主演を務め、実力派俳優として国内外にその名を知らしめる。アカデミー賞®外国語映画賞ノミネート作『フットノート』(11・未)では、イスラエルのアカデミー賞にあたるオフィール賞最優秀助演男優賞を受賞。その他の出演作に、クエンティン・タランティーノが“今年最高の映画”と絶賛した『オオカミは嘘をつく』(13)、『嘘はフィクサーのはじまり』(16)、 第74回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(審査員グランプリ)を受賞した『運命は踊る』(17)など。オフィール賞作品賞に輝いた同作ではミハエル・フェルドマン役を演じ、自身も同賞最優秀主演男優賞を獲得している。
ベン・シュネッツァー(ジーヴ・ヒルシュ)
BEN SCHNETZER (Zeev Hirsch)
1990年2月28日、アメリカ生まれ。11歳のとき、舞台「オリバー」で俳優活動をスタート。その後、ロンドンのギルドホール音楽演劇学校で学び、「オイディプス」「お気に召すまま」など数々の舞台に出演した。2014年のマシュー・ウォーチャス監督作『パレードへようこそ』で、英インディペンデント映画賞の最優秀助演男優賞と最優秀新人賞の2部門にノミネートされた。その他の出演作に、『やさしい本泥棒』(13・未)、『ウォークラフト』(16)、『スノーデン』(16)など。
ドゥニ・メノーシェ(ジャック・ルモワーヌ)
Denis Ménochet (Jacques Lemoine)
1976年、フランス生まれ。クエンティン・タランティーノ監督作『イングロリアス・バスターズ』(09)出演を機に、映画界での活躍がスタート。DVを題材とするアカデミー賞®短編実写映画賞ノミネート作『すべてを失う前に』(12・未)と、同作を長編化した第74回ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(最優秀監督賞)受賞作『ジュリアン』(17)では、鋭い眼差しを武器に強烈な印象を残した。その他の出演作に、『黄色い星の子供たち』(10)、『スカイラブ』(11)、『危険なプロット』(12)、『疑惑のチャンピオン』(15)など。
ジョゼ・パジーリャ(監督)
JOSÉ PADILHA (Director)
1967年8月1日、ブラジル生まれ。リオデジャネイロで起きたバスジャック事件を追ったドキュメンタリー、『バス174』(02)で長編監督デビュー。同作では製作も兼務し、エミー賞とピーボディ賞を受賞した。さらに脚本・監督・製作を担ったミリタリーアクション『エリート・スクワッド』(07・未)と、続編『エリート・スクワッド ブラジル特殊部隊BOPE』(10・未)で高い評価を獲得、興行的にも成功を収めた。第1作目は第58回ベルリン国際映画祭で、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(07)を抑え金熊賞に輝いている。2014年のジョエル・キナマン主演版『ロボコップ』で、アメリカ映画を初監督。また、リオを舞台にした短編オムニバス作『リオ、アイラブユー』(14/ブラジル映画祭2015での上映タイトル:『リオ、エウ・チ・アモ』)の1話の監督を務めた。ゴールデングローブ賞にノミネートされたNetflixのドラマシリーズ「ナルコス」(15~17)では製作総指揮を務め、パイロット版を含む2エピソードの監督も担当。2018年には、実際の汚職事件に着想を得たNetflixのドラマシリーズ「メカニズム」(18~)の企画・製作を担当した。ブラジルの大手新聞「オ・グロボ」紙の解説者でもある。